大判例

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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)8476号 判決

原告

松田正雄こと朴正雄

被告

大越産業株式会社

ほか一名

第二 主文

一  被告両名は連帯して原告に対し金七一五万四七二一円及び内金六四五万四七二一円につき昭和四六年二月七日以降残金七〇万円につき昭和四七年八月二十二日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その七を被告両名の負担とし、その余の三を原告の負担とする。

四  右第一項に限り仮に執行することができる。

第三 事実

一  請求の趣旨

被告両名は連帯して原告に対し、金一八四七万五二四四円及びこれにつき昭和四三年九月一二日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

本訴請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求の原因

(一)  (事故の発生)

原告は次の交通事故により負傷した。

1  発生時 昭和四三年九月十二日午前八時頃

2  発生地 江東区東雲一―九先路上

3  被告車 大型貨物自動車(三菱ふそう。十一屯車。足立一う五六五六)

運転者 被告佐藤

4  原告車 自動二輪車(ホンダCB二五〇。一足い二五〇七)

運転者 原告

5  態様 直進中の原告車前部と右折中の被告右側前部とが衝突し、原告が路上に転倒。

6  傷害の部位程度

(病名)

頭蓋陥没骨折、脳挫傷、左上腕神経損傷。

(治療)

<省略>

原告は後遺症が認定された後に至つても、東京医科大学病院の伊藤医師の「投薬を継続服用しないとテンカンになる可能性がある」旨の指示に従い、同病院より薬をもらつて服用して現在に至つている。

7  後遺症

神経学的に頭部の局所的変形。手術部瘢痕創。耳鳴、難聴。顔面知覚異常(左)。脳波検査では、外傷側に軽度の異常。

精神科学的所見として、人格水準の低下と軽度の失語症状。

左腕神経叢麻痺による左肩関節部筋委縮、左肩上方挙上運動低下、左手指第四、五指知覚障害。

以上の症状を併合して、自賠法施行令別表等級の第八級に相当する。

(二)  (責任原因)

被告両名は次の理由により、本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。

1  被告会社は被告車を保有し、自己のために運行の用に供していた者であるから、自賠法三条による責任。

2  被告会社は被告佐藤を使用し、同被告が被告会社の業務の執行として運転中、後記のとおりの過失により本件事故を発生させたので、民法七一五条一項による責任。

3  被告佐藤は事故発生につき次の過失があつたから、不法行為者本人として民法七〇九条による責任。

即ち被告佐藤は本件事故発生地(中央分離帯の切れ目)にて被告車を右折せしめるにあたり、あらかじめ右折の合図を出し、かつ、右側方ないし右側後続車との安全を確認すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、道路の中央に寄ることなく、大まわりに急拠右折を開始した過失により、折柄、右後方から道路中央寄りを直進走行して来た原告車の前部に被告車の右側前部を衝突させて転倒せしめて本件事故となつた。

(三)  (損害)

1  将来の治療費 金一〇五万四〇〇〇円

即ち、左側頭骨欠損部位に対し頭蓋成形術を将来行うための入院等の治療費である。もしも右欠損部位に軽度の外力が与えられた場合でも致命的な影響を受けることになるので、この事態を避けるためどうしても再手術の必要がある。但し、これにより後遺症が軽減するものではない。

2  逸失利益 金一、三二四万一六七七円

(内訳)

(1) 事故時から口頭弁論終結予定時までの逸失利益 金一八五万九四九四円

(イ) 昭和四四年分 金六六万四二〇〇円

事故当時予定されていた月収金六万円の九カ月分(四月より一二月まで)に別紙記載の全産業常用労働者の昭和四四年度分平均賞与金一六万五六〇〇円の一二分の九を加算したものである。

(ロ) 昭和四五年分 金一〇五万五六三五円

賃金センサスによる別紙記載の「全産業労働者の平均給与額表」の昭和四五年分の平均年収入額を同四四年分のそれで除して得られた一、一九二(上昇率)を事故当時における一年間の実際の所得額(給料金七二万円に別表記載の平均賞与額を加算したもの)に乗じた算出額金一〇五万五六三五円である。

(ハ) 昭和四六年分 金一二〇万六一八七円

前項に記載したと同じ方法により算出したものである。

(ニ) 昭和四七年分 金一二〇万六一八七円

前項と同旨である。

右合計金四一三万二二〇九円に労働能力喪失率一〇〇分の四五を乗じて得た金額は金一八五万九四九四円である。

(2) 口頭弁論終結時以降の逸失利益金一一三八万二一八三円

事故当時の一年間の所得額に別紙記載の賃金上昇率を乗じて算出した一二〇万六一八七円及び稼動年数三八年ホフマン係数二〇、九七〇を基礎にして算出した総額に対する労働能力喪失率一〇〇分の四五を乗じ既払分を控除したものである。

3  慰藉料 残金二五〇万円

(内訳)

(1) 後遺症固定時までの分 金二〇〇万円

昭和四三年九月一二日より同四四年七月一九日まで一〇カ月については、一カ月金二〇万円の割合で請求するものである。

通常の交通事故の場合、入院一カ月金一五万円の慰謝料が裁判所における定型であることは理解しているが、本件は同じ類型にはあてはまらないものである。

証拠上示されている多額の治療費からも明白なように本件事故は原告にとつて九死に一生を得たものであり、これは家族全員及び知人、友人の懸命の看護があつてはじめて可能になつたもので、その苦労とそれに伴う出費(雑費)も多額のものになる。

又原告自身の苦痛も著しいものがあつたことはカルテに記載されているとおりである。

右のような諸状況を一般的に加味すれば一カ月金二〇万円の割合による慰藉料はむしろ当然である。

(2) 後遺症固定後の分 金二〇〇万円

本件事故により原告は本来のインテリアデザイナーとしての職業を選択することが出来ず、「全く別の人間」になつてしまつたのである。

これを前記の如く逸失利益という形で具体的に計算しても、とうてい評価しきれないものである。

原告にとつて本件事故後の生活は死にまさる苦しみがあると言わねばならない。

(3) 既弁済分金一五〇万円を差し引いて、頭初の残金二五〇万円を訴求する。

4  弁護士費用 金一六七万九五六七円

本訴請求額の一割に相当する弁護士費用を訴求する。

5  原告車の損害 金一〇万円

(四)  (結論)

よつて被告両名に対し、原告は差引残の内金一八四七万五二四四円及びこれにつき事故当日たる昭和四三年九月一二日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の附加支払を求める。

四  被告側の答弁

(一)  請求原因第(一)項中、6、7は不知、その余は認める。なお入通院の実情は原告主張のとおり認める。

(二)  同第(二)項中、被告会社が被告車の運行供用者であつたことは認め、その余は否認。

(三)  同第(三)項は争う。但し3の(3)の金一五〇万円を原告が受領済みである点は認める。

なお将来の逸失利益につき四五%の労働能力喪失率で三八年間もあることを前提に請求しているけれども、事故後、大学を立派に卒業し、現在ではガソリンスタンドで働いている実情からして、その後遺症の程度と従来の裁判例とからみて、五年間認められるのが相当と思料する。

(四)  同第(四)項は争う。

五  被告側の抗弁

(一)  過失相殺

被告佐藤は被告車を運転して来て、本件事故発生地において転回すべく、あらかじめ右折の方向指示器による合図を出しながら、時速一〇粁位でゆつくりと右折を開始し、被告車が道路とほぼ直角になつたところ、後方より時速五〇粁で中央分離帯寄りを走行して来た原告車は被告車の右側前部に衝突して本件事故となつた。

従つて、原告には制限速度違反、前方注視義務違反の過失があつたから、賠償額算定にあたり三〇%を下らない過失相殺がされるべきである。

(二)  弁済 合計金四五〇万九八一七円

1  医療費 金二一四万三八三〇円

(内訳)

(1) 豊洲厚生病院分 金九七万八二〇〇円

(2) 東京医科大学分 金一一六万五六三〇円

2  看護費 金一五万三二一〇円

昭和四三年一〇月一日以降同年一二月七日まで東京医科大学病院に入院中の附添看護費。

3  逸失利益への内入 金六一万〇一九一円

昭和四四年六月以降同年一二月にかけて弁済した。

4  慰藉料 金一〇万二五八六円

原告が昭和四四年二月と八月とに熱海及び北海道に宿泊旅行した際の費用を同年四月と九月とに弁済した。これは慰藉料の一部に充当した。

5  後遺症慰藉料等 金一五〇万円

自賠責保険よりの後遺症分金一〇一万円と被告側の任意弁済金四九万円との合計を昭和四六年七月二九日支払つた。

六  抗弁に対する原告側の答弁

(一)  過失相殺は否認

(二)  弁済は認める。但し4(慰藉料)は、あくまでも、伊東医師の指示にもとづいて行われた療法の一つなのであるから、治療費である。

第四 理由

一  (事故の発生)

請求原因第(一)項中、6(傷害の部位、程度)、7(後遺症)を除き、その余の事実は当事者間に争いがない。

右6(傷害の部位程度)は〔証拠略〕によつて、原告主張のとおりであることが認められる(但し入通院の実情は当事者間に争いがない)。

右7(後遺症)は、〔証拠略〕によつて原告主張のとおりの後遺症がある旨昭和四六年二月六日診断されたことが認められる。

二  (責任原因、過失相殺)

(一)  被告会社が被告車の運行供用者であることは当事者間に争いがない。

(二)  次に事故発生の過失につき検討する。

〔証拠略〕を総合すれば、次の事実を認め得る。

即ち本件事故発生地は車道幅員約二八米(但し中央に約二米のグリーンベルトがあり、片側約一三米)の舗装された平担で見通しの良好な直線道路で、いわゆる晴海通りである。

被告佐藤は被告車を運転して豊洲方面から都橋方面へ直進して来て、本件事故発生地がグリーンベルトの切れ目であり、ここを転回すべく、右折の合図を出すと共に時速一〇粁位に減速したのみで、右側後方から来る自動車の動静に対する安全を確認することなく、やや大廻りに、グリーンベルトの切れ目を転回走行せしめた過失により、グリーンベルト寄りを時速五〇粁位で後続して来ていた原告車の前部と被告車の右側前部とが衝突し、その衝撃で原告は路上に転倒、意識不明となるとともに原告車が大破し、本件事故となつた。他方、原告は右を如く原告車を直進走行せしめるにあたり、先行車の動向につき十分注意せず、被告車が右折の合図を出すとともに、その態勢に入つているのに、これに気付かず、何等の措置もとらないまま直進走行を継続した過失があつた。この経過の骨子は別紙見取図のとおりである。

右認定事実によれば、双方の過失の競合によつて発生したものというべく損害賠償額算出にあたり斟酌すべき過失相殺割合としては原告側が三割、被告側が七割と認めるのを相当とする。

(三)  被告会社は被告佐藤を運転手として使用し、被告佐藤が被告会社の業務の執行として被告車を運転中、本件事故を発生せしめた。この事実は〔証拠略〕によつて認め得る。

(四)  従つて被告会社は自賠法三条、民法七一五条一項により、被告佐藤は民法七〇九条により、連帯して後記認容すべき総損害の七割相当額を賠償する責任がある。

三  (損害)

(一)  将来の治療費 金一〇五万四〇〇〇円

〔証拠略〕によれば、請求原因第(三)項(1)の事実を認め得る。これによれば、将来の手術代として金一〇五万四〇〇〇円を必要とすることが予定されているところ、その手術の時期については不明確であるにしろ、それ程、遠い将来のことでもないので、中間利息の控除をしないこととする。

(二)  逸失利益 計金九六一万円

1  過去の逸失利益 金二一三万円

〔証拠略〕によれば、次の事実を認め得る。

即ち原告は昭和二一年二月二日生れの健康な男子にして、事故当時、日本大学法学部経営法学科四年生であり、かつ、翌春の昭和四四年三月右大学を卒業すると同時に訴外株式会社大森建設に月給金六万円という条件で就職が内定していた。ところが本件事故による重傷のため、前認定の入通院を重ねる一方、大学当局の温情あるはからいもあつて、予定どおり昭和四四年三月に卒業できた。しかしながら、会社へ勤務できる体までに回復していなかつたため、右採用内定は取消された。その後も加療を続ける一方、体力の回復を企図し、父親の涙ぐましき配慮により、少しづつ父親の仕事を手伝わせながら、順次、社会適応性を養うと共に、父親の経営するガソリンスタンドで雑役として働いている。これを兄弟達が見守つている現状である。その間、前認定のとおり昭和四六年二月、後遺症第八級相当と診断された。

右認定事実によれば、得べかりし利益の喪失額として昭和四四年度分は金五四万円(即ち金六万円の九カ月分)、昭和四五年分は金八四万円(即ち金六万円の一四カ月分。これには年間賞与二カ月分を含む)、昭和四六、四七年度分は金七五万円(即ち金六万円の一四カ月分の二カ年分に労働能力喪失率四五%を剰じて得られた額から万未満を切り捨てた額)を認めるのを相当とする。

2  将来の逸失利益 金七四八万円

右認定事実によれば、原告の将来性につきそれ程明確な立証はないので、最も新しい賃金センサスに基き逸失利益を算出するのを相当とする。新制大学卒業者の昭和四六年度における平均収入が年間金一四九万三七〇〇円(これには賞与を含む)であることは当裁判所に顕著である。そして前認定の後遺症の実情からみて二六才から六三才までの三七年間にわたり三〇%(当初は四五%位にしても、非常に永い将来のことを想定したため、平均して三〇%とみた。)の労働能力低下があるものと推認して、年五分の中間利息の控除をライプニツツ方式に従つて現在額を算出し、不確定要素を斟酌して金七四八万円を将来の逸失利益と認めるのを相当とする。

1,493,700円×30/100×16.7112=7,488,455円

(三)  慰藉料 金二五〇万円

前認定の諸事実によれば、原告の精神的苦痛による損害として金二五〇万円を認めるのを相当とする。

(四)  原告車の損害 金一〇万円

〔証拠略〕を総合すれば、新車で金一九万七〇〇〇円であるところ、事故当時までに或る程度乗り込んであつたところ、本件事故により修理してみても不経済ということから、そのまま放置されたことが認められる。これによれば、原告車の損害として金一〇万円と認めるのを相当とする。

(五)  医療費 金二一四万三八三〇円

(六)  看護費 金一五万三二一〇円

(七)  旅行費 金一〇万二五八六円

右(五)(六)(七)はいずれも既弁済で、当事者間に争いがない。従つて、これは本件訴求外のものであるけれども、過失相殺する前提の総損害を算出するために、ここに認定した。なお右(七)旅行費につき、その金額は争いないけれども、その費目につき、原告側は「治療費の一部」と主張し、被告側は「慰藉料の一部」であると主張して、くい違いが生じている。〔証拠略〕によれば、伊東医師の示唆で昭和四四年に熱海と北海道とにリハビリテイシヨンの一環として旅行した費用であることが認められる。

(八)  損害の填補 計金四五〇万九八一七円

被告主張の弁済総額が右の金額であることは当事者間に争いがない。

(九)  差引計算 残金六四五万四七二一円

右(一)から(七)までの損害合計は金一五六六万三六二六円となるところ、過失相殺した残りの七割相当額は金一〇九六万四五三八円となり、これから右(八)の損害の填補金四五〇万九八一七円を控除すると残金六四五万四七二一円となる。

(十)  弁護士費用 金七〇万円

任意弁済に応じてもらえないため、原告は原告訴訟代理人弁護士らに本訴の提起と追行とを委任し訴額の一割を支払う旨を約していることが、弁論の全趣旨によつて認め得る。しかし訴訟の全経過からみて、被告側に負担せしめ得る額は金七〇万円をもつて相当と認める。

四  (結論)

よつて被告両名に対し金七一五万四七二一円及び内金六四五万四七二一円につき後遺症認定の翌日たる昭和四六年二月七日以降、残金七〇万円(弁護士費用)につき訴状が被告両名に送達された翌日たる昭和四七年八月二二日(この点は当裁判所に顕著である)以降右各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において認容し、その余は失当として棄却を免かれず、民事訴訟法九二条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 龍前三郎)

全産業常用労働者の平均給与額(男子)

<省略>

見取図

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